Outlookでエクスポートして失敗しない安全な移行と完全保存ガイド

PC買い替えや退職前、あるいは「容量がいっぱいです」の警告を見てから慌てて「outlook エクスポート」を検索した時点で、静かに損をしている人が多いです。理由は単純で、「とりあえずpstを1個出した」「とりあえずostをコピーした」程度では、守れるはずのメールや予定表、連絡先の“範囲”と“将来の使いやすさ”が大きく削られているからです。

Outlookのエクスポートは、操作自体は数クリックで終わります。しかし実務では、次の3つが揃わない限り「安全に移行できた」「完全に保存できた」とは言えません。

• 自分のOutlookが「新Outlook」「classic」「Web版」のどれで、どこまでエクスポートできるか把握していること
• pst／ost／csvを、メール・連絡先・予定表ごとにどう組み合わせるか決めていること
• 数年後に「開けない」「どれが本物か分からない」を避ける保存単位と検証手順を持っていること

これを外すと、よくあるのが次の展開です。
新PCに移したつもりが一部フォルダだけ抜けていた、退職者メールをostだけコピーして使えなかった、共有メールボックスや委任アクセス分がごっそり抜けていた、パスワード付きpstの引き継ぎが漏れて数年後に誰も開けない。どれも一度の操作ミスが、後から取り返しのつかない「証跡不足」「引き継ぎ不備」になっています。

この記事は、一般的な「エクスポート手順」をなぞるものではありません。Microsoft公式ヘルプの前提を踏まえたうえで、現場で実際に起きている失敗パターンと、それを潰すための判断軸だけを抜き出しています。

• 新Outlook／classic／Web版をアイコンとメニューで切り分ける早見
• ostコピーで涙を飲んだケースから見える「バックアップとして成立させる条件」
• ネットワークドライブ直書きがなぜ止まりやすいのかと、プロが黙ってローカル出力を選ぶ理由
• 「全部残しておけ」と言われたときに、年度×案件で分割保存した企業が採った線引き
• 情シスが一斉移行前に必ず用意しているFAQとチェックリストの中身

単に「やり方」を覚えるのではなく、「どこまで守るか」「どこまで試してよいか」の線引きまで決めてからエクスポートすれば、作業時間は同じでも、将来のトラブル対応コストが大きく変わります。

この記事全体で得られる具体的な利得は、次の通りです。

今まさにエクスポートしようとしているなら、手を動かす前の数分で十分です。自分のOutlookが何者で、どのパターンに当てはまるかだけ確認してから読み進めてください。そこでの選択が、今日一度の作業を「将来も使える資産」にするか、「形だけのバックアップ」に終わらせるかを分けます。

まず「自分のOutlookが何者か」を見極める｜新Outlook・classic・Web版でエクスポートの前提が変わる

Outlookは「同じ名前の別ソフト」が混在している状態に近い。ここを外すと、そもそもエクスポート画面にたどり着けず時間だけ溶ける。作業を始める前に、まず自分のOutlookを正体確認しておく。

アイコンとメニューで見分ける「新Outlook」と「classic Outlook」のざっくり判定ポイント

現場で一番多い質問が「自分は新Outlookなのか、classicなのか分からない」。難しく考えず、次の2点を見ると早い。

1. タスクバーやスタートメニューのアイコン
2. 画面左上のメニュー構成

判定の目安を一覧にするとこうなる。

classicと書かれていなくても、会社で昔から使っているOutlookで「ファイル」タブがあるならほぼclassic側と見てよい。

逆に、PCを買い替えた直後に突然メニューがシンプルになり、「ファイル」タブが見当たらない、歯車アイコン中心の画面なら新Outlookの可能性が高い。この違いを無視して旧バージョンの記事をそのまま追うと、「書いてあるボタンがどこにもない」という状態になる。

Web版・モバイル版では「そもそも何がエクスポートできるのか」

ブラウザで開くOutlook on the web（Outlook Web App）や、iPhone/AndroidのOutlookアプリには、classicのような「pstエクスポート」機能は基本的にない。ここを理解していないと、「スマホからpstを作りたい」という実現不能な相談になってしまう。

ざっくり整理すると次の通り。

「職場PCではブラウザのOutlookしか開けない」という相談もよくあるが、その場合は「エクスポート専用PC（classic Outlookインストール済み）を使って一時的に同じアカウントを設定する」という段取りから設計する必要がある。

Exchange / IMAP / POP、アカウントの種類で変わる“守れる範囲”

同じOutlookでも、接続しているメールサーバーの種類で「どこまでバックアップ対象にすべきか」が変わる。ここを理解していない担当者が、ostだけコピーして後で青ざめるパターンが何度も報告されている。

同じ「outlook エクスポート」でも、Exchangeなら「どこまでアーカイブするか」という整理の話になり、POPなら「やらなければ後戻り不可」というリスク管理の話になる。相談を受けた側は、まずアカウント種別を確認しないと、適切な助言ができない。

「pst」「ost」「csv」…結局どれを選べばいい？バックアップ設計の核心だけを整理する

Outlookのエクスポートは、「どのボタンをクリックするか」より先に、「どの形式で何を守るか」を決めた瞬間に勝負がつきます。pst・ost・csvを全部ごちゃまぜにすると、数年後に自分の首を絞めます。

ostコピーで安心してしまうと、なぜ後で泣く人が出るのか

現場で何度も聞くのが「.ostを外付けHDDにコピーしておいたから大丈夫だと思っていた」という声です。ここを勘違いすると、バックアップした“つもり貯金”がゼロになります。

• ostの正体

  Exchange／Outlook.com／IMAPの「サーバーデータの一時コピー」。キャッシュに近い存在。

• よく起きるパターン

  • 退職者PCからostだけコピー
  • 数か月後、サーバー保持期限切れ
  • ost単体はインポート不可で、メールを戻せない

• なぜ危ないか

  • ostは「そのPC・そのプロファイル」とセットで機能する前提
  • ファイルを別PCに持っていっても、標準機能では開けない
  • サーバー側に元データが消えた瞬間、ただの大きなゴミファイルになる

「残したいならpst、速く見たいならost」
この切り分けを徹底しておくと、後のトラブルが激減します。

メール・連絡先・予定表、それぞれに向いたエクスポート形式の実務的な組み合わせ例

バックアップ設計は、データの種類ごとに「本命形式」を決めておくと判断がブレません。

実務で多い「組み合わせ」は、このあたりに落ち着きます。

• 新PCへの移行

  • メール・予定表・連絡先一式 → pst

• Google Workspaceや別サービスへの移行

  • 連絡先 → csv
  • 必要な予定だけ → 手動エクスポート＋整理

• 容量対策で古いメールを退避

  • 指定期間のメール → 年度別pstに分割

「人に渡す・他サービスへ連携」はcsv、「Outlookで再利用」はpstと覚えておくと判断が速くなります。

アーカイブ用pstと“一時退避pst”を分ける発想

同じpstでも、「長期保存」と「一旦逃がす用」を混ぜると、破損時のダメージが致命的になります。現場でリスクを抑えている担当者ほど、用途でpstを分けています。

おすすめの運用イメージは次の通りです。

• アーカイブ用pst

  • 年度×案件で作成
  • ローカルにエクスポート → 検証 → 社内の正式な保存場所にコピー

• 一時退避pst

  • 容量警告が出た時点で、古いフォルダーを丸ごと退避
  • 「本当に二度と見ない」と判断できたタイミングで削除候補に格下げ

こうして役割を分けておくと、壊れたときに「どこまで復旧コストをかけるか」も判断しやすくなるのが大きなメリットです。

新PCへのOutlook移行でハマる典型パターン｜バージョン違い・保存先ミス・パスワード忘れ

「パソコンを新しくした瞬間から、Outlookの“地雷原”が始まる」と感じている現場は少なくない。特に、Outlook 2019 → Outlook 2024／新Outlookへの移行は、画面もメニューも微妙に変わり、手順書が一晩で古くなる領域だ。この章では、実際の問い合わせで繰り返し出てくる“ハマりパターン”だけを絞って整理する。

「旧PC：Outlook 2019 → 新PC：Outlook 2024／新Outlook」で起きがちな画面ギャップ

同じ「Outlook」でも、classic Outlookと新Outlookではメニュー構成が違う。ここを曖昧にしたまま移行を始めると、最初の5分で足が止まる。

現場で多いのは、新PC側が新Outlookになっているのに、classic前提のマニュアルで探し回るパターンだ。対応策は単純で、移行前に次の2点を必ず確認する。

• 新PCのOutlookのタイトルバーに「新しいOutlook」切り替えスイッチがあるか

• ファイルタブを開いた時に「開く/エクスポート」が見えるか

ここで「見えない」場合、classic向け手順で押し切るのは危険になる。Microsoftのサポート情報で、自分のOutlookに合うメニュー構成を一度照らし合わせてから進めた方が、結果的に早く終わる。

ネットワークドライブ直書きでエクスポートが途中停止したケースと、プロが勧める回避手順

移行時によく出る要望が「どうせなら共有サーバーにそのまま保存したい」というものだが、pstをネットワークドライブに直接エクスポートする運用は、現場ではトラブル報告が多い。

複数の担当者から共有されているパターンはこうだ。

• 共有フォルダを保存先に指定してpstをエクスポート

• 数GBに近づいたあたりで進行バーが止まったように見える

• 終了してもpstが開けない、もしくはサイズが明らかに小さい

I/O負荷や一時的な回線不安定が絡むと、書き込み途中のpstが中途半端な状態で終わる場合がある。そこで、プロがほぼ口を揃えて勧めているのが「ローカル保存→コピー」二段構えだ。

• 手順1：旧PCのローカルディスク（Cドライブのドキュメント配下など）にpstをエクスポート

• 手順2：エクスポート完了後、Outlookからそのpstを一度開いて中身をざっくり確認

• 手順3：問題なければ、そのpstファイルをエクスプローラーでネットワークドライブや外付けHDDにコピー

この1ステップ挟むだけで、「途中停止していたのに気づかず、移行当日に開けない」という事故をかなりの割合で防げる。

パスワード付きpstの“引き継ぎ漏れ”で、数年後に開けなくなった案件

セキュリティ意識の高い担当者ほどやりがちなのが、pstにパスワードを設定して満足してしまうパターンだ。バックアップ時点では「自分だけ分かっていればいい」と感じても、数年後に別担当が開こうとして詰まる。

現場で共有されている失敗例はシンプルだ。

• 退職者メールをpstにエクスポートする際、パスワードを設定

• メモも共有もせず、そのままファイルサーバーに保存

• 数年後、トラブル対応で過去メールが必要になり、別の担当者がpstを開こうとする

• パスワードが分からず、サーバーに残っている範囲だけ再取得する羽目になる

この手のトラブルを避ける設計として、次の2案がよく採用されている。

• 案1：組織としてpstにパスワードを付けない方針にし、保管場所とアクセス権で守る

• 案2：どうしてもパスワードを付ける場合は、「管理者が管理する台帳」に登録する運用を徹底する

新PCへの移行で「とりあえず自分だけ守れればいい」という発想で設定したパスワードが、数年後の自分や後任の足かせになることは珍しくない。移行時点で「このpstを誰が、いつまで使う可能性があるか」という視点を一度通しておくと、余計な“時限爆弾”を仕込まずに済む。

退職・異動前に「メールを全部残しておいて」と言われたときの、現場レベルの正解

「全部残して」と言われた瞬間から、あなたの頭の中はこうなります。
「全部って、どこからどこまでだよ……PSTに吐けばOK？連絡先や予定表は？」

ここをあいまいにしたままエクスポートすると、後から必ず揉めます。先に「どこまで守るか」を決めてから、Outlookのエクスポート操作に入るのがプロの順番です。

「全部」は本当に全部か？年度×案件で分割保存した企業の判断軸

現場で多いのは、「在職期間＝全部」を1つのPSTに押し込んでしまい、数GB超えの巨大ファイルになって破損リスクが跳ね上がるパターンです。
複数の企業・大学の情シスから聞かれるのは、年度×案件でPSTを分割する運用に切り替えた結果、「探しやすくて壊れにくい」アーカイブになったという声です。

判断の軸はシンプルです。

• 将来参照される単位：年度か、プロジェクトか

• 機密度：社外共有を含む案件メールは分けるか

• 容量：1PSTを何GBまで許容するか（大きいほどI/O負荷と破損リスクが増える）

上司と擦り合わせるときは、次のようなイメージを共有すると通じやすくなります。

「全部」という曖昧ワードを、年数×案件粒度に翻訳してからOutlookのエクスポート範囲を決めると、後から「必要なメールが見つからない」というクレームをかなり減らせます。

メールと連絡先と予定表、どこまで残せば業務引き継ぎに耐えられるか

Outlookの中身は、メールだけではありません。退職・異動の引き継ぎで効いてくるのは次の3点です。

• メール（業務経緯・証跡）

• 連絡先（誰とつながっていたか）

• 予定表／日程（どんな案件が進行中か）

PSTはメール・連絡先・カレンダーをまとめてバックアップできますが、使い道ごとに考えるとわかりやすくなります。

• 次の担当者がすぐ使いたいもの

  → 連絡先はCSVでエクスポートして、Teamsやスマホ連絡先にも取り込みやすくする

• 証跡として「残っていればよい」もの

  → メールと予定表はPSTでアーカイブし、「必要なときだけ開く倉庫」にする

たとえば、営業職なら「全メール＋顧客ごとの連絡先＋今後3～6か月の予定表」を確実に残す、バックオフィスなら「契約・支払関連メール＋取引先連絡先」が最優先など、職種ごとに“落とせないデータ”は違うのが実務です。
上司に確認するときは、「メールだけでいいのか、連絡先とカレンダーも含めるのか」を必ず分けて聞き返してください。

共有メールボックス・委任アクセスが絡むときに、素人が見落としがちな権限の落とし穴

ここが一番トラブルになりやすいポイントです。Exchange環境では、個人メールボックス以外に次のような箱が存在します。

• 部署共通の共有メールボックス

• 上司の予定表を操作するための委任アクセス

• チーム用のグループ予定表

頻発するのが、この誤解です。
「自分のOutlookで見えているから、自分のPSTに全部入るはずだ」

実際には、エクスポート元として選択できるかどうかは権限と構成次第です。

• 共有メールボックス

  → フルアクセス権があっても、自分のPSTに混ぜると責任範囲が曖昧になりがち。
  「個人メールは個人PST」「共有メールは共有用PST」に分けると、後からの監査対応がしやすくなります。

• 上司の予定表への委任

  → 自分の退職時に「上司の予定までPSTに持ち出す」ことは情報管理上グレーになりやすい領域です。
  実務では、「自分の予定表だけエクスポート」「上司分はサーバー上で保持」が無難な線引きとして選ばれることが多く聞かれます。

権限絡みで迷ったとき、プロは必ず次の順番で確認します。

• それは「個人の業務履歴」か「組織の共有資産」か

• 自分の退職後、そのデータを誰がどう参照するのか

• PSTとしてローカル保存してよい情報かどうか（人事情報・機密案件を含まないか）

この整理をせずに、「見えている箱を全部PSTに詰め込む」と、情報持ち出し疑惑と、必要な人の手元にデータがない問題が同時に発生します。
一歩引いて「これは誰のデータで、どこに置くのが正しいか」を決めてから、Outlookのエクスポート操作に手を付けると、安全に攻め切れます。

容量制限・サーバー保持期限との戦い｜“なんとなく全保存”から抜け出すエクスポート運用

メールサーバーからの「容量がいっぱいです」アラートは、Outlookユーザーにとってほぼ避けられないイベントだが、そこでやりがちなのが「とりあえず全部pstにエクスポートして永久保存」。この発想のまま突き進むと、数年後に開けない巨大pstと、誰も中身を見ない“闇アーカイブ”だけが残る。ここでは、現場で実際に機能している容量対策＋Outlookエクスポート運用に絞って整理する。

「容量がいっぱいなので古いメールを消してください」と言われたときの安全な逃げ道

容量警告が来た瞬間に削除ボタンを押す前に、最低限押さえておきたい動きは次の3ステップだ。

1. 「消す」のではなく「逃がす」前提で考える
   まず対象期間を決めてpstにエクスポートし、サーバーからは削除する。
2. 逃がす先はローカルSSD → その後バックアップメディアへコピー
   ネットワークドライブへいきなり書き出すと、途中停止やpst破損の声が複数の現場から上がっている。
3. エクスポート後にpstをOutlookで一度開いて中身を確認
   「ファイルサイズはあるのにフォルダーが空」状態を防ぐ最終チェックになる。

容量対策でやりがちなNGセットは、ostファイルをコピーして安心してしまうパターンだ。ostはサーバーデータのキャッシュであり、バックアップ用のデータファイルではないとMicrosoft自身も明示している。サーバー側の保持期限を過ぎてから「ostから戻せませんか」と相談されても、復元の選択肢はかなり限られる。

何年分をpstに逃がすか？企業・大学で実際に採用されている年数の決め方

「何年残すか」は情シスや総務が最も揉めやすい論点だが、複数の企業・大学の運用を聞いていると、決め方にははっきり傾向がある。

ポイントは「全ユーザー一律で決めておく」ことだ。ユーザー任せにすると、「全部残したい人」と「すぐ消したい人」の差が激しくなり、Outlookエクスポートの設計が崩れる。
実務的には、次のような分け方に落ち着いているケースが多い。

• サーバー上: 直近1〜2年分を残す（Outlook日常利用分）

• pstアーカイブ: ポリシーで決めた3〜7年分をフォルダー単位で退避

• それより前: 案件・裁判リスクが想定されるものだけ個別保全

大容量pstを1つだけ作るリスクと、複数ファイルに分けた現場の実感

「10年分を1つのpstで持っておけば安心」と言いたくなるが、現場の感触は真逆に近い。複数の担当者が口を揃えるのは、“大きすぎるpstは壊れたときのダメージが致命的”ということだ。

特にOutlookの動作安定性を考えると、1ファイルあたりのpst容量は10GBを大きく超えないよう抑える運用が安心だという声が多い。理由は単純で、ネットワーク越しのコピー時間・バックアップ時間・破損リスクが、容量にほぼ比例して重くなるからだ。

現場で比較的うまく回っているのは、次のような折衷案だ。

• pstは年度×部署で分割（例: Sales_2022.pst）

• 大型案件だけはさらに案件名のpstを別途作成

• 命名ルールを社内標準として共有し、情シスが一覧表を持っておく

Outlookエクスポートは「とりあえずPSTに全部保存」から一歩踏み出した瞬間に、容量制限が“面倒な作業”から“情報資産の棚卸し”に変わる。その分岐点が、保持年数の決め方とpstの分割設計だと考えてよい。

情シス・IT担当に残された「一斉移行プロジェクト」のリアル｜FAQ先出しで問い合わせを半減させる

「Outlookのエクスポート手順書を配った瞬間から、問い合わせの嵐が始まる」。多くの情シスが味わっている現場の空気だ。ここでは、問い合わせを“ゼロ”にするのではなく、「同じ質問」を半減させる設計に振り切る。

典型的な問い合わせは決まっている。

• 画面がマニュアルと違う

• ボタンが見つからない

• pstファイルはどこに保存すればいいか

• ostとpstの違いが分からない

• エクスポートしたのにメールが見当たらない

これらを事前FAQとして1枚にまとめ、配布物や社内ポータルの一番上に置く。FMVサポートや大学ITセンターの実例でも、「よくある勘違い」を先に見せるだけで一次問い合わせは目に見えて減ると共有されている。

FAQの骨格は次のように整理すると分かりやすい。

• 自分のOutlookの種類（新 / classic / Web）

• アカウントの種類（Exchange / IMAP / POP）

• 出力形式（pst / csv）の違い

• 保存場所とファイル名の決め方

• インポートの入口

「画面がマニュアルと違う」「ボタンが見つからない」問い合わせを減らすスクリーンショットの撮り方

スクショは「画面キャプチャ」ではなく、「迷子防止の地図」として撮る。ポイントは3つだけだ。

• 画面全体を写し、Outlookアイコンとウィンドウタイトルを入れる

• クリック箇所だけでなく、「そのボタンがあるエリア一帯」を囲む

• 新Outlookとclassic Outlookは必ず別々のスクショにする

典型的な撮り分け例を整理しておく。

ここを曖昧にして「Outlookの設定を開きます」とだけ書くと、「自分はどっちのOutlookか分からない」問い合わせが雪崩のように来る。スクショ1枚に「これは新Outlookの例です」と明記するだけで、大半はセルフ判定してくれる。

テストユーザーで“失敗させておく”ことの意味｜想定外トラブルを事前に洗い出す

一斉移行で一番怖いのは、「マニュアル通りにやったつもりなのに、実際は誰も完走できない」パターンだ。これを防ぐには、テストユーザーにわざとつまずいてもらう時間を必ず取る。

テストで見ておきたいのは次の観点だ。

• エクスポートボタンまで、自力で迷わず到達できるか

• pstの保存先を、指示通り「ローカル→ネットワークコピー」にできるか

• ファイル名の付け方がバラバラになっていないか

• インポートで、誤って空のメールボックスを指定していないか

現場からは、テストユーザーに任せた結果として、

• ネットワークドライブ直書きで途中停止

• ostだけコピーしてバックアップ完了と思い込む

• パスワード付きpstを個人だけが覚えていて引き継ぎ不能

といった“潜在トラブル”が事前に浮かび上がったケースが報告されている。Jicooや社内グループウェアと連携する場合も、エクスポートしたファイルが本当に読み込めるかをテスト段階で確認しておくと、後の復旧工数が桁違いに軽くなる。

大学・企業のITセンターで実際に使われている、Outlookエクスポートの事前・事後チェックリスト

最後に、問い合わせ削減に効くチェックリストのひな形を示す。弘前大学ITセンターや企業情シスが配布している内容をベースにした構成だ。

【事前チェック】

• パソコンの空き容量は、メールデータ想定サイズの2倍以上あるか

• ネットワーク負荷が低い時間帯を選んでいるか

• 自分のOutlookが新 / classic / Web版のどれか把握しているか

• アカウント種別（Exchange / IMAP / POP）を確認したか

• 保存先フォルダとファイル名のルールを決めたか

【事後チェック】

• 作成されたpstファイルのサイズが「0KB」でないか

• pstを別のOutlookで開き、メール・連絡先・カレンダーが見えるか

• ファイルを2箇所以上（ローカル＋サーバー、外付けディスクなど）に保存したか

• インポート手順書のリンクを同じフォルダにテキストで残したか

このチェックリストをマニュアル本体と同じくらい目立つ場所に置くと、「エクスポートはしたが、本当にバックアップできているか不安」という“確認だけの問い合わせ”が明確に減る。情シスの時間を奪うのは高度なトラブルよりも、こうした確認質問なので、先に潰しておく価値が大きい。

よくある相談LINE/メールを再現：プロがどう聞き返し、どこを確認しているか

相談例1：「新しいパソコンにOutlookを移したいのですが、どのファイルをコピーすればいいですか？」への返信フロー

最初にやるのはファイル探しではなく、環境の特定です。実務では、だいたい次の順で聞き返します。

• 今使っているOutlookの種類（新Outlookかclassicか）

• アカウント種別（Exchange / Microsoft 365 / IMAP / POP）

• 移行先パソコンのOutlookバージョン

• メールだけか、連絡先・カレンダーも移行したいか

返信イメージはこうなります。

1. 「Outlookを開いて、左上のアイコンは青い『O』ですか？それとも白地に『Outlook』と文字が出ていますか？」
2. 「ファイル→アカウント設定→アカウント設定を押して、アカウントの種類の欄に何と出ていますか？」
3. 「今回バックアップしたいのは、メールだけですか？連絡先や予定も必要ですか？」

この3点が分かれば、

• Exchange系→pstでアーカイブ

• POP→pstは事実上の命綱

• 連絡先だけ別サービスに移す→csv

と、“どのファイルをコピーするか”ではなく“どの形式でエクスポートするか”を指示できます。

相談例2：「退職前に全部バックアップしておけと言われました。pstとostの違いが分かりません」の解きほぐし方

この質問が来たら、まず不安を落ち着かせつつ核心だけを押さえます。

• 「ostはサーバーの一時コピー」

• 「pstが本番のバックアップファイル」

と伝えるのが現場の定番です。

よく使う説明を整理すると次の通りです。

ここまで伝えた上で、

• 「メールボックス全体をpstでエクスポート」

• 「年度や案件ごとにpstを分けるかは会社のルールと相談」

• 「ostコピーだけで安心しない」

という3ステップに分解すると、退職前の人でも迷いづらくなります。

相談例3：「エクスポートしたpstが開けません」と言われたときに、最初の5分で確認するポイント

この相談は時間との勝負です。プロは感覚ではなく、機械的に次を確認します。

• 保存先はローカルか、ネットワークドライブか

• ファイルサイズが極端に小さくないか（数KBなど）

• 同名pstを上書きしていないか

• パスワードを設定した記憶がないか

• 新Outlookで開こうとしていないか

実際の聞き方はこうなります。

1. 「そのpstはCドライブ直下にありますか？共有フォルダですか？」
2. 「エクスプローラーでファイルを右クリックして、プロパティのサイズを教えてください。」
3. 「作成日時と更新日時は同じですか？途中で止まった形跡はありませんか？」
4. 「作成時にパスワードを求められた記憶はありますか？」
5. 「今開こうとしているOutlookの左上、アイコンの見た目を教えてください。」

ここまででほとんどの案件は切り分けできます。
特に、ネットワークドライブ直書きでの破損疑いと、新Outlook側の制約は、最近の問い合わせで目立つチェックポイントになっています。

公式ヘルプだけでは見えない「やってはいけない線引き」と、安全に攻めるための最終チェックリスト

「この操作は試してはいけない」「ここまでは試してよい」の境界線

Outlookのエクスポートは、線引きを間違えると「バックアップしたつもりが、守れていない」状態になりがちです。現場で止めているのは次の操作です。

絶対にやめた方がいい操作

• .ostファイルだけをコピーしてバックアップ完了とみなす

  • ostはExchangeやIMAPの一時キャッシュで、単体ではインポートできないケースが多い

• ネットワークドライブに直接pstを書き出す

  • 回線負荷時にエクスポートが止まる報告が繰り返し出ている

• 1つのpstに数年分を全部まとめる

  • ファイル破損時のダメージが大きく、検証にも時間がかかる

• パスワード付きpstのパスを個人だけで抱える

  • 数年後、他担当者が開けず「存在するのに読めないファイル」になる

状況次第で「やってよい」攻め方

• 大量データを年度別・案件別に複数pstへ分割エクスポート

• ローカルディスクに保存してから、共有サーバーや外付けディスクへ後コピー

• 一時退避用pst（PC入れ替え用）と、長期アーカイブ用pst（年度別保存）を目的別に分ける

境界線は「後から第三者が開いて検証できるか」「壊れたときの被害範囲を小さくできているか」で引くと判断がぶれません。

作業前に1分で終わる“環境セルフ診断”：容量・回線・バージョンの3点セット

本番作業に入る前に、最低限これだけは確認しておくと事故が激減します。

1. 容量チェック（パソコン側とメール側）

• パソコンの空き容量：エクスポート対象の2～3倍あるか

• Outlookデータファイル（現在のpst/ost）のサイズ：

  → 5GBを超える場合は、年度別に分ける前提で計画する

2. 回線・保存先の状態

• 当日は安定したLAN環境か（VPNが不安定ならローカル保存を優先）

• 保存先はまずCドライブかローカルSSDにし、その後コピーする段取りか

3. バージョン・アカウント種別の把握

• 自分のOutlookが新Outlookかclassicかをアイコンとメニューで確認

• アカウント種別（Exchange / IMAP / POP）を確認し、「そもそもサーバーに残っているのか」「ローカルだけなのか」を把握

次のようにメモしておくと、作業ログとしても役立ちます。

エクスポート完了後、復旧テストまでやって初めて「守れた」と言える理由

「エクスポートが完了しました」のメッセージは、“スタジアムの外にボールを出しただけ”の状態です。守り切れたかどうかは、実際にそのボールを使ってプレーできるかで決まります。

現場で行っている最低限の復旧テストは次の通りです。

1. 別プロファイルまたは別パソコンでpstを開く
   • Outlookで「既存のOutlookデータファイルを開く」を使い、対象pstを読み込み
2. メール・連絡先・カレンダーをざっと確認
   • 代表的な年度・案件フォルダが開けるか
   • 日程や連絡先が「0件」になっていないか
3. ファイルサイズと保存場所の記録
   • pstの最終サイズと保存パスをメモし、共有ストレージに記録

ここまで行うと、「pstはあるが開けない」「想定より中身が少なかった」といったトラブルを事前に潰せます。Microsoft公式ヘルプはエクスポート手順までは詳しく案内していますが、この“復旧テスト”は運用側の工夫に委ねられている部分です。

Outlookのバックアップは、作成ボタンをクリックした瞬間ではなく、「別環境で開いて中身を確認した瞬間」に完了します。そこまでやっておくと、新PCへの移行も退職前の引き継ぎも、胸を張って「守れています」と言えるはずです。

執筆者紹介

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